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ザグレブ行きの前に、アリーテの塔の模型を作っていた。アパートの準備室から『スプリガン』の現場にてくてく出かけては、スプリガンはまだセルを使っていたので、生セルの梱包の中敷に入っているボール紙を集めては持って返り、森川さんがキャラクターで悩んでいるその横で、日がな一日紙工作に興じるのである。
塔そのもののサイズに対して中のスペースはどのくらいとれるのか。その中に置く寝台は縦に置くべきか横向きに置くべきか。戸口をどの辺に設ければ、そこからの見た目はどう見えるか。模型で形にしてみると分かりやすい。
昔『名犬ラッシー』という仕事をしたときにもこれをやった。あのときは犬が自由に行き来出来るよう扉を省いた間取りにしつつも、でも隣の部屋が見通せないようなうまい仕掛け考える必要があった。名犬なのだから扉くらい自分で開け閉めしそうなのだが、毎度毎度その芝居を描くのも作画の仕事量の問題としてたいへんすぎる。見通しを悪くするのも同じことで、居間のシーンなのにいちいち奥の台所まで背景を描いてるわけにはいかない。
『アリーテ姫』では、ほかに「地下牢」「地下牢を見下ろすのぞき窓の部屋」「ボックスの居室」も模型で作った。むしろ、造形的に複雑な舞台装置をつくり出したかったのだ。しかも、きちんとカメラアングルを決められて、出来上がり画面がさまになることを考えながら。こういうとき、模型に組むのはほんとうに便利だ。気に入らなければ、切ったり貼ったりを繰り返す。
おかげでその夏4℃に来た御中元の箱はみんな使ってしまった。
(2001年06月07日(木) 建築模型 「片渕監督の四方山話」より)
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