前回変なところで終わっていたのだが、ほとんど停まりかけの車の側面にこちらがぶつけたので、むしろ被害は向こうの方が大きかったのだった。こちらはその場でコロンと地面に転がっただけなのだけど、向こう様はドアを大きく凹ましてしまったのだった。ほんとうに申し訳ないことをしてしまった。
その頃、というのはもう1997年になっている。夏に栄子さんから呼び出しをくらった。何かと思えば、何か片渕さんの作品をつくろうよ、というお話なのであった。どうしてそのように思われたのか、今にしてもよく分からない。おまけに、 「何にしようか、企画?」 ということで、企画も何でもよさそうなのである。 何でも良いということになると、自分としては正直『アリーテ』はすでに過去のものの部類に入りかけていた。何にしようか。 だが、まあ、この際途中まで脚本の手がついているというのは楽なのかも知れない。栄子さんの印象だと、この時の僕は「高野豆腐のしぼりかす」みたいだったという。そういわれても仕方ないほどぼろぼろだったし、なんだかもう「量で仕事できる時期」は過ぎ去ってしまったという気にもなっていた。 それに、おまけに映画化権料を負担してもらったままで、イギリスの原作者に支払ったお金を無駄にさせては悪いし。 なんだか、アリーテをこのまま埋もれさせてしまうのは不憫という気がしてきたぞ。 「じゃあ…『アリーテ』でやってみようかな」 夢のない話である。 夢はそのあとに、栄子さんが広げる。 |