CoolNote
戻る

[中世を映画で見る](2001年12月06日(木))
 某友人が彼の大好きな『薔薇の名前』の映画は見たか問うのだが、見たも何も、風邪ひき娘の面倒で自宅で過ごす今、横のテレビで昼の映画劇場でやっているところだ。『アリーテ』の準備室にわざわざ自弁でテレビデオを買って来て、森川さんに見てもらったうちの一本がこの映画だった。ジャン・ジャック・アノーは『スターリングラード』もそうだったが、人間の顔の造形にこだわる人だと思う。『薔薇の名前』ではとことん「中世をイメージさせる顔」にこだわっている。森川さんにその気分を汲み取って、職人たちのデザインをしてもらいたかったのである。
 もう一本挙げるとするなら『処女の泉』だろう。ベルイマンは黒澤の『羅生門』にインスパイアされてこの映画を撮った。造形上のリアリズムはそれ故だ。『処女の泉』で見る昔のヨーロッパの服飾は、いかにも現代のデザインと直結している。そのまま今に持って来て着て歩いても、振り返られることもあるまい。強いて言うなら何が違うか。手縫いの糸の縫い目がたいへん大きい。そこが違う。
 中世の頃のヨーロッパの衣服は袖口などがたいへん細く、体にぴったりとフィットしている。あれは、伸び縮みのある素材を使っているわけではない。着てから、袖の開きを縫いつけているのである。アリーテの袖口にもこの縫い目をつけた。衣服全体に『処女の泉』の縫い目をつけられれば良かったのだが、あまりに煩雑なので、象徴的に使ったつもり。
 『処女の泉』からは、まだ森で覆われていた頃のヨーロッパの雰囲気も借りた。緑の牧草地、一面の農地のヨーロッパは開発が進んだ後世のものなのである。古くは地平線まで果てしなくつづく森なのであった。そういうカットも作った。このカットでは、美術では「森」ではなく数本の「木」を描いてもらい、それを大量にコピーして笹川君が画面に植え付けた。その方が無数の木が並んでいる感じが出るかと思ったのだが、どうだったろう。


戻る
Cool Note -i v4.5 CoolandCool