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[第5日](2001年12月22日(土))
丸一日をパリで過ごせるのは今日で最後。
ここへ来て時差ぼけがすっかりなくなり、やたらと体の調子が良くなる。だもので、また夜明けの市内を歩き回る。ルーブルが朝日を浴びている。
今日はひとりでフォーラムへ「出勤」する。誤算だったのは、土日は事務員が休みで裏口が開いていないことだ。うろうろしていると、通りかかった女性が「Mister Katabuchi?」と声をかけて来る。フォーラムの職員の方だった。「Come with me!」と鍵を開けてくれる。
会場内に張られたアリーテ姫の写真などをカメラに収めていると、とてものっぽの黒人の警備員が来てとめられる。撮影禁止なのだそうだ。しかし、一般客はまだ来ていないし、なんでまた。
11時から日本のアニメーションの現状を語る公開討論会が開かれる。開催中ずっと毎日開かれていたようなのだが、今日は「片渕さんも出て下さい」とイラン氏に頼まれたのである。
「僕のほかに日本のアニメーションに詳しいフランス人二、三人が喋るんですが、割と抽象的なところが多くて、ほんとうのところどうなのか喋ってもらえれば」
話が始まると、日本のアニメーション作家をどのように分類するか、というようなことをやっている。東映動画、虫プロのあたりから始まって、大友・押井に至る系列を整理しようとしているらしい。
「りんたろうは作家性がはっきりしない。与えられた原作をそのままやっているだけではないか」などと語る人がいるから、
「りんさんの作品はどれも皆、必死に戦ってがんばって努力して、でも主人公は何も手に出来ずに終わるという空しさの中にある何かを描く、ということで全作品の主題が首尾一貫しているのだが」などと、ついつい喋ってしまう。イランさんが「そうですね、『メトロポリス』もそうですね」などと自分の見解も巧みに織り交ぜつつフランス語に訳してくれる。
取材が一件。フランス唯一の日本のアニメの雑誌「アニメランド」。元は同人誌から出発したというだけあって、3人がかりでかなり突っ込んだ質問をされる。
美術監督の名を訊かれ「西田稔さん」と答えると、記者のひとりが「『チイサナバイキングビッケ』『…』『…』」などとやたら詳しく西田さんのフィルモグラフィーを語り始める。ほんとうにマニアなんだな、この人たちは。またも時間オーバーして話し込む。どうせ、今日はもう仕事はないのだから。
大塚さんや通訳の人たちと事務局にたむろしてだらだら過ごす。写真を撮ったり、名刺を渡して連絡先を教えあったりする。イランさん、アキコさん、キョウコさん、アイナさん、ヴァンソン君、クレモン君、それに大塚さんの作画ワークショップのアシスタントで元ジブリのアニメーターのダヴィッド君。
「アキコさんて『武田晶子』っていうんだ」
と、林愛奈さん。日本人同士でも名刺を交換して初めて苗字や漢字表記を知るというのが、なんだかおもしろい。取材の時など通訳のお世話になったのは坂本恭子さん。
今夜は折りしもパリを訪問中の宮崎駿さんをここのフォーラムの所長さんが招いての夕食会があるとかで、じゃあ、このみんなで明日は昼御飯をともにしてお別れ会をしようということにする。
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