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[第4日](2001年12月21日(金))
今朝はまたなんと4時前に目が覚めてしまう。
7時になってホテルの朝食が始まるのを待ち、そそくさと食べると町歩きに出かける。昨日とは反対に東のほうへ歩き、寒いし、くたびれてきたのでノートルダム寺院に入って休む。聖堂は暖房が利いているし、椅子があって足を休められるので、ほんとうに助かる。お礼の意味も込めて10フランで蝋燭を買って聖ジャンヌ・ダルクに供える。曾祖母がカソリック教徒で教会付属の幼稚園に入れられたので、三児の魂なんとやらで十字が切れてしまうのである。
こんなおおきな聖堂の片隅にも、お人形を並べてベツレヘムの厩が作ってある。赤子の入るべき籠はまだ空っぽのまま。25日になったら、あそこにも小さなお人形がのっかるのだろう。
今日も午前中は予定がないので、ヴァンソン君に案内してもらってノンマルトルへ行く。さすがに地下鉄に乗る。本来はオルレアンの住民であるヴァンソン君より自分のほうが地下鉄乗り場の勘が利いてしまうところがあっておもしろい。
ノンマルトルでもまた教会へ入る。ここにもジャンヌ・ダルクの像がある。なにせヴァンソン君はオルレアン市民なので「ほら、ジャンヌ・ダルクがいるよ」というと、「へえー、そんなのがこんなとこにあるもんなんですねえ」と言っている。「こっちの像はなんですか?」「ええっと、これはヨセフ」何かが逆であるが、まあ、それはこちらの年の功ということで。
ここにもお人形でこしらえた厩がある。マリアさんの腕の中はやはり空っぽ。そこに赤ちゃんが抱かれるところを見たいのだが、その頃には東京に帰っているだろう。
それからエッフェル塔を下から見上げて、フォーラムへ帰る。
これから『名探偵ホームズ』の上映があるので舞台挨拶するのである。
上映前の観客に『ホームズ』を説明しようとして「戦艦」という言葉を出したのがまずかった。「戦艦」なんてテクニカルターム、通訳のふたりとも知らないのである。おそらく観客にもわかるまい。あらためて自分の常識が世間並みではないことを思い知る。
夜は『アリーテ姫』の上映。前後に舞台上がって話をするのだが、これはフランスのアニメーション作家ジャック・コロンバ監督とふたりで行う。コロンバ監督は1991年にはじめての長編として『ロビンソンと仲間たち』という作品を発表されている。そのビデオを手に入れてもらって事前に見る。カワ=トポールさんのオフィスのテレビを貸してもらってそれを見る。見るうちに5人の通訳たちも集まってきて満杯になる。みんなに台詞を訳してもらいながら見る。『アリーテ姫』のことをこの催しのパンフレットでは「商業作品としては独自の立場を築く」云々と書かれているが、このコロンバ版ロビンソン・クルーソーにこそそんな形容がふさわしい。やはり、製作費を集めるのにも苦労されたようである。何となく『アリーテ姫』とコロンバさんさんをカップリングしたその心が理解できてくる。
怖い人でなければいいが、と思ったコロンバさんが来る。歳は向こうのほうが二十近く上のはずなのだが、ハードボイルドなしゃがれ声で渋くジョークを飛ばしまくる海賊の親玉みたいな「親父」である。素敵な人だ。
ありがたいことにかなり器のある客席は前売りですでに満席だそうである。まず、コロンバ氏がポール・グリモーのところにいたときに作ったという古い短編を上映する。「見終わってから非道い奴だなんて言うなよ。俺だって妻もあれば子どももある普通の人間なんだぜ」
見終わった後、ヴァンソン君に「あんたは非道い人だ」とコロンバに伝えてもらう。「親父」はにやりとする。あんなに可愛らしい絵で、あんなに可愛らしい笑顔で泣かせられるとは思わなかった。この人は「人間」とは何かを知っているのだ。
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