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[第3日](2001年12月20日(木))
 今日は朝からテレビの取材。大塚、川井、今、片渕でレストランのテーブルを囲んで和やかに話す姿を映す、という企画らしい。テーブルといってもパンしか出ないので、今さんはすっかり腹をすかしてしまったらしく、猛然とクロワッサンに組ついている。「少し飲んだほうが口の回りがよくなるかな」などと軽口をいったらほんとうにワインが出てきたので、食べ物も頼めば良かったのかもしれない。奥ゆかしいのである。アニメーションにたずさわるようになったきっかけから話題が始まって、「安い」とか「きつい」とか、「でも金なんかもらった出来なくなるかもしれない」さらには「今後の日本のアニメーションは何を作ればよいのかわからなくなりかけている」などと話しが続く。
 ひととおり収録を終わってテーブルの上を見ると、「金」とか「束縛」とか書かれたカードの山がある。「話題がとぎれたときにはそれをめくって話しを継いでもらおうと思ってたのですが、そんなもの出さなくてもほぼ皆さんの話題がこちらに考えている方向へ向かったので良かったです」と言われる。まあ、アニメ業界の話題なんてそんなところなのだろう。しかし、「金」のカードには笑った。

 午後は予定なし。
 大塚さんは12日からこちらへ着ているのだが、すでに2度廃兵院に行かれたとかで、大塚さん付の通訳愛奈さんが「大塚さんたら、片渕さんがみえたら絶対連れて行くんだっておっしゃってたんですよ」とのこと。中世の甲胄の素晴しい展示があるのだそうだ。大塚さんと僕、それにそれぞれの通訳がついて、まず向かうのはルーブル裏の札幌ラーメンである。ここもすでに大塚さんと愛奈さんのお馴染みなっているらしい。
 廃兵院アンバリッドの展示物は確かに素晴しく、しかも造詣深い大塚さん直々の解説がつくのだからこれはまたとなく得難い。ここにはほかにもナポレオニックの軍装品や第一次、第二次大戦の展示もかなりある。「あとは見てきてちょうだい。僕はコーラ飲んで休んでるから」と、大塚さん。ここまで歩いてきたのでお疲れなのである。「あとはこの人が詳しいから解説してくれるから」と僕が指名されてしまう。だが、もう閉館時間だとかで慌ただしく追い出されてしまう。
 お疲れの大塚さんはそこからバスで帰られ、僕はヴァンソン君とシャンゼリゼの方まで足を伸ばして、クリスマスの電飾を見物に行く。パリへ来る機会はこの先もあるかもしれないが、クリスマス前というのはそうあることではない。ヴァンソン君はさらに遠くにも「ぜひ片渕さんにみていただきたい」光のきれいな広場がある、と誘う。「ここまで来たらオペラ座のロビーものぞいて行きましょう」ふたりして焼栗を食べながらひたすら歩く。今日だけでいったいどのくらい歩いたことになるのだろう。

 夕食はサンドイッチになる。夜の部で大塚康生作品集の上映があり、大塚さんが一本ずつに解説を加えられるのである。興味深いので拝聴に行く。ああ、僕も20年前こうした大塚さんのお仕事にあこがれてこの道を選んだのだった。最初に演出に手を染めたときには、文字どおり手取り足取り教えていただいた。机を並べて仕事が出来た一時期は今は遠く、だが再びこうしてふたりしてパリの地に立つことが出来ている。感慨深い。


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