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[『アリーテ姫』今昔物語(2) ](2002年01月15日(火))
 4℃に持ち込まれてからも、女性だけのスタッフという構想のまま一度は当たってみたことも、実は一度はあったのだと思う。だが、何故かうまく引き受けてもらえはしなかったらしい。現実に自分の才能ひとつで世間の中を渡っている女性の目を引くには、もうひとつ何かが必要なのかも知れない。それは客観性というものなのだろうか。ならば、女性監督にこだわる必要もないではないか。

 スタジオ4℃は、『魔女の宅急便』のスタッフが解散したあと、その何人かが集まって作った集団として始まった。
 このあいだまで栄子さんの御一家が住まっていた2DK平屋の民家。その畳敷きの六畳二間に動画机を詰め込み、台所が制作部。たったひとりの制作は日本アニメーションからの派遣で、スタジオ4℃自体の社員などひとりもいなかった。その当時はまだ。
 その中に集ったアニメーターや演出家がひとりづつ順番に、やってきた機会をうまくつかまえて自分の作品をものにしてゆこう。森本晃司さんは『彼女の想いで』に取り掛かっていた。佐藤好春『おおかみと七匹の子やぎ』、山川浩臣『くじらぐも』……。
 男が監督してもかまわないじゃないか、と腹さえくくってしまえば、順番として『アリーテ姫の冒険』はまだ何の作品ももっていない僕、片渕が手がけるべきものだった。

 その台所で栄子さんから手渡されたとき、僕はすでにその本の題名に見覚えがあった。そう、これはあの本かも知れない。いや、そうにまちがいなかった。
 


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