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[『アリーテ姫』今昔物語(13)](2002年02月02日(土) )
 まず監督料がそれほど出せないのは確定的なので、自分としてはほかの仕事を並行して働いてゆかなければならない。
 その当時やっていたのはテレビシリーズ『ちびまる子ちゃん』の絵コンテ・演出で、実はこれは自分としてはなかなか画期的な仕事であった。
 今までは、最初に参加した『名探偵ホームズ』以来の方法論で、絵コンテで作家作業的に作品を完成させてゆくという、要するに脚本より絵コンテでの発想を優先させるという発想が染み込みきっていたのだが、『まる子』の場合、シナリオは原作者のさくらももこさん自身が全話執筆し(現在は違う)、これに対する台詞の変更などはしないというのがルールであった。さくらさんの不動の脚本を手にしたとき、こちらの立場は「作家」ではなく「演出家」に限定することが出来たのだ。

 予算が限定されている『アリーテ』の現状で出来ることは、脚本を思い切って台詞劇にしてしまうことなのかも知れなかった。台詞の運びで舞台劇的に物語を進行させる構成で、作画密度を下げてみようと考えたのである。その素地は、『ちびまる子』での経験にあった。

 にしても、さくらさんのシナリオは人間の洞察、形象という点でもおもしろかったし、『ちびまる子』の制作システムはかなりきちんと出来上がっていた上に、スタッフも信頼できる人ばかりを固定して固めてもらえるなどの便宜すらあった。表現的なルールが定められているのも、悩む余地を減らして前へ進むことのストレスを減らしていてくれた。並行して仕事しつづけてゆくのに苦労はなさそうだった。『アリーテ姫』の制作がいよいよ佳境に入って僕の泣きがはいるまで、この並行作業はつづけられてゆく。


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